主婦に休業損害は認められるのか？

１　そもそも休業損害とは

　休業損害とは，被害者が，当該交通事故により受けた傷害の症状が固定するまで（これを「症状固定」といいます）の療養の期間中に，傷害やその療養のために休業し，又は十分に働くことができなかったことから生じる収入の喪失を言います。

　要は，交通事故がなければ得られていたはずの収入の減少を言います。

　このように，休業損害が「収入の減少」を指すのであれば，事業所得者や給与所得者にしか認められないようにも思えます。

　確かに，自営業や会社員の方が交通事故に遭われて仕事を休まざるを得なかったとなれば，その分実際の収入が減り（有給を使うなど例外はありますが，それはさておき），収入に直接的な影響が及びますね。

　それでは，主婦の方が交通事故に遭われた場合，収入に直接的な影響を及ぼさないとして，休業損害は認められないのでしょうか。

　なお，本記事では「主婦」と記載していますが，男性が主婦業に従事する場合，いわゆる「主夫」であっても同様です。

２　主婦にも休業損害が認められる場合がある

　主婦が従事する家事労働にはさまざまな業務があります。炊事，掃除，洗濯などは家事労働の代表例です。

　そのような家事労働を日々こなしているからといって，家族からその対価として賃金等が支払われている主婦の方は，ほとんどいらっしゃらないのではないでしょうか。

　しかし，家事労働を，家事代行業者など外部に業務として委託すると，相当の費用が発生します。そのため，家事労働は，事業所得者や給与所得者の業務と同様に，対価が発生すべき業務と考えられているのです。例えば，ダス●ンやベア●ズは，家事労働を一つの専門的業務として確立しています。

　したがって，事故当時，実際に家事労働に従事していれば，家事労働について休業損害が認められ得ます。

　では，家事労働に従事していれば，ただちに家事労働分の休業損害が認められるのかというと，そうではありません。

　主婦業について休業損害が認められる上記の趣旨からすれば，あくまで，家族を含む他人のために主婦業に従事している必要があります。一人暮らしの方が自分のためだけに家事をしていた場合のように，他人のために主婦業に従事していると評価されなければ，主婦業について休業損害は認められないのです。

３　家事労働について休業損害額は？

　では，家事労働分について休業損害が認められるとして，その額はどのように決まるのでしょう。

　一般的に休業損害は，休業日数に基礎収入（日額）を乗じて算出されます。計算式は以下のとおりとなります。

　　　　　　【計算式】休業損害＝基礎収入（日額）×休業日数

　家事労働についても，基本的には上記計算式によって求められることとなります。

　基礎収入（日額）は，原則として，賃金センサス女性学歴計全年齢平均を基礎とします。

　次に，休業日数については，家事労働特有の問題点があります。それは，休業日数が一義的に決まらないという点です。

　すなわち，家事労働については，被害者がある一定の傷害を受けても，被害者の努力によって，家事労働をある程度こなしている場合が多いのです。

　このような場合，事故日から症状固定日までの全期間が休業日数として認められる可能性は低く，家事労働について実際に制限を受けた範囲内で休業が生じたと考えていくことになります。

４　家事労働と仕事を両立していた場合

　現代において，現実収入を伴う業務に携わるかたわら家事労働をもこなす，兼業主婦の方は少なくありません。

　このような場合，家事労働としての休業損害と，現実収入の損害と，どちらも請求できるのでしょうか。

　結論から言うと，現実収入の金額と家事労働分とを加算することはできません。

　兼業主婦が仕事をしている以上，その家事労働については専業主婦の家事労働に比べ，質量ともに劣る，と一般的に考えられているからです（実際はさておき）。

　そのため，兼業主婦については，家事労働としての休業損害と現実収入の金額を比べ，被害者にとって有利なほうを選択し，請求していくこととなります。

　当該事案について，現実収入の金額と家事労働分のどちらを請求するのが有利であるかは一概には言えず，個別の詳細な検討が求められます。

５　主婦休損の請求は当職にお任せください

　家事労働に従事していたことをどのようにして立証するか，休業日数は何日であれば妥当なのか，パートに出ていた場合はどちらを選択すればよいのか，立証にはどのような資料が必要なのか…など，家事労働の休業損害請求は複雑かつ高度に専門的な知識と判断を要します。最善の結果を出すためにも，事故に遭われた際はできるだけ早く，交通事故分野を得意とする当職にご相談ください！